時計修理店で、時計を専用の機械にセットして数字や波形を確認しているところを見たことはありませんか。
この機械は「タイムグラファー」と呼ばれ、機械式時計の精度や動作状態を確認するときに使用します。
画面には「日差」「振り角」「片振り」などが表示されますが、修理店では日差の数字だけを見て時計の状態を判断しているわけではありません。
今回は、タイムグラファーに表示される主な3つの数値と、時計の向きを変えて測定する理由について、時計修理店の視点から解説します。

機械式時計をタイムグラファーにセットして測定している様子
タイムグラファーとは?
タイムグラファーは、主に機械式時計の精度や動作の傾向を確認するための測定器です。
機械式時計が刻む音を拾い、そのタイミングを解析することで、日差・振り角・片振りなどを数値として表示します。
修理や点検、精度調整などを行う際に、時計がどのような状態で動いているのかを確認するための重要な道具の一つです。
ただし、タイムグラファーに良い数字が表示されていれば、それだけで「時計全体の状態が良い」と判断できるわけではありません。
まずは、代表的な3つの数値を見ていきます。
タイムグラファーで見る3つの数字

タイムグラファーに表示される主な3項目「日差・振り角・片振り」
日差|1日にどれくらい進む・遅れるか
「日差」は、時計が1日あたりどれくらい進む、または遅れる傾向にあるかを示す値です。
例えば、
+5秒/日
→ 1日あたり約5秒進む方向
-5秒/日
→ 1日あたり約5秒遅れる方向
という意味です。
ただし、ここで表示されているのはそのときの姿勢や巻き上げ状態などの条件下で測定した値です。
タイムグラファーで「+5秒」と表示されていても、実際に腕に着けて1日使用した結果が必ず+5秒になるとは限りません。
日差そのものについては、以下の記事で詳しく解説しています。
3分でわかる|機械式時計は、なぜ毎日少しずつズレるの?修理店が解説
振り角|テンプがどれくらい大きく振れているか
「振り角」は、時計内部にあるテンプが左右にどれくらい大きく振れているかを角度で示した値です。
テンプは、機械式時計が一定のリズムで時を刻むための重要な部品です。
そのため振り角も、ムーブメントの動作状態を見るうえで重要な手掛かりになります。
ただし、
「○○度以上なら絶対に正常」
「○○度以下なら故障」
と、数字だけで一律に判断するものではありません。
振り角は、
- ゼンマイの巻き上げ状態
- 時計の姿勢
- ムーブメントの種類
- 測定条件
などによって変化します。
また、振り角を測定する際には、ムーブメントに応じた拘束角(リフトアングル)の設定も関係します。
そのため修理店では、振り角単独ではなく、他の測定値と合わせて確認します。
テンプを含む機械式時計の基本的な仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
3分でわかる|機械式時計とは?ゼンマイで動く仕組みを修理店が解説
片振り|左右の動きのズレを見る
「片振り」は、テンプが左右に振れるときに生じる脱進音のタイミングのズレを示す値です。
タイムグラファーでは「ms(ミリ秒)」という単位で表示されます。
左右の動作がより均等であれば、片振りの数値は小さくなります。
こちらも日差や振り角と同様に、片振りだけで時計全体の状態を判断するものではありません。
なぜ時計の向きを変えて測るの?
機械式時計は、時計の向きによって精度や測定値が変化することがあります。
これを「姿勢差」と呼びます。
例えば、文字盤を上にした状態では日差が小さくても、時計を横向きにすると日差が変化することがあります。
腕時計は実際に使用していると、
- 文字盤が上を向く
- リューズ側が下を向く
- 反対側が下を向く
など、さまざまな姿勢になります。
そのため、修理店では必要に応じて時計の向きを変えながら測定し、姿勢によって数値が大きく変化していないかなども確認します。

時計の向きを変えながら、姿勢による測定値の違いを確認します
「日差が良い=時計の状態が良い」とは限らない
ここが今回、最もお伝えしたいポイントです。
例えばタイムグラファーに、
日差 +2秒
と表示されていたとします。
数字だけを見ると、とても精度が良い時計に見えます。
しかし修理店では、日差だけではなく、
- 振り角はどうか
- 片振りはどうか
- 姿勢を変えたときに大きな差が出ないか
なども確認します。
さらに、実際に時計を使用したときの進み・遅れや、持続時間、操作時の違和感なども重要です。
つまり、
タイムグラファーの日差が良い
= 時計全体の状態が良い
とは限りません。
反対に、1つの姿勢で多少の日差が出ていても、実際の使用では大きな問題にならない場合もあります。
1つの数字だけを切り取らず、複数の測定結果を合わせて見ることが重要です。
修理店ではタイムグラファーをどう使う?
タイムグラファーは、単純に「何秒ズレているか」を確認するだけの機械ではありません。
例えば時計修理では、
修理前に測定
↓
現在の精度や動作状態を確認
修理・調整
↓
修理後に再測定
↓
精度や動作状態を確認
といった使い方をします。
必要に応じて複数の姿勢で測定し、修理前後で数値がどのように変化したかも確認します。
タイムグラファーは、時計の状態を数値として確認するための一つの判断材料なのです。
タイムグラファーだけで故障は分かる?
タイムグラファーは非常に便利な測定器ですが、タイムグラファーだけですべての故障を診断できるわけではありません。
例えば数値上は大きな問題が見られなくても、
- 時計が途中で止まる
- ゼンマイを巻いても持続時間が短い
- リューズ操作に違和感がある
- 実際の使用では大きく時間がズレる
といった症状が出ることがあります。
そのため修理店では、
- お客様から伺った症状
- タイムグラファーの測定結果
- 実際の持続・精度
- 操作感
- 必要に応じた内部点検
などを組み合わせて時計の状態を判断します。
タイムグラファーの数字は重要ですが、あくまで診断材料の一つと考えるのが適切です。
以前より日差が大きくなった、日によってズレ方が変わる、止まりやすくなったなどの場合は、タイムグラファーの数値だけでなく実際の症状も合わせて時計の状態を確認します。

まとめ|数字1つではなく、全体を見る
タイムグラファーでは、主に、
日差
1日にどれくらい進む・遅れるか
振り角
テンプがどれくらい大きく振れているか
片振り
テンプの左右の動きに伴うタイミングのズレ
を確認できます。
さらに、時計の姿勢を変えながら測定することで、姿勢による数値の変化も確認します。
大切なのは、
「日差が良いから問題なし」と、1つの数字だけで判断しないこと。
タイムグラファーの結果だけでなく、複数の測定値や実際の時計の状態を合わせて見ることで、より適切な判断につながります。
時計の進み・遅れが大きくなった、以前と精度が変わった、止まりやすくなったなど、気になる症状がある場合はお気軽にご相談ください。









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